近年、メディアにハンドドライヤーが度々取り上げられるなか、衛生的に利用できる「吸引式」が注目を集めています。
弊社の「CIRCULA(サーキュラ)」も、飛沫を約99.7%抑えられる吸引式ハンドドライヤーとして、テレビやWebメディアから取材いただくことが増えました。
ただ、この「CIRCULA」が完成するまでには、約25年の研究と改善を繰り返した過去があります。
今回は代表取締役社長である淺見に、吸引式ハンドドライヤーとの出会いや「CIRCULA」開発に至るまでの経緯などを聞きました。
「吸引式ハンドドライヤー」との出会い
――吸引式ハンドドライヤーの存在を知ったのはいつ頃でしょうか?
淺見:2014年に、知人からの紹介で知りました。
その頃は、株式会社タイズが業務用の吸引式ハンドドライヤーを製造していました。扱っていたのは「食品工場」「製薬会社」や「精密機器メーカーの工場」などの製造現場に向けた製品です。
淺見:私自身、ハンドドライヤーの衛生面を疑問視しており「一般の方がオフィスや商業施設のトイレで安心して使えるようになったらいいな」と考えていました。
そんなとき、同社から一般の施設に向け吸引式ハンドドライヤーを開発する話をいただき、2014年に株式会社Air Laboを創業しました。
吸引式ハンドドライヤー1号機として開発された「CRENA(クレナ)-FF」
淺見:株式会社タイズを引き継いだ後、業務用の吸引式ハンドドライヤーの名称を「CRENA(クレナ)-FF」へ改めています。
製品名に「FF=For Factory(工場用)」と付け、業務用であることがより伝わるようにしました。
浅見:手洗いで菌・ウイルスを洗い流しても、ハンカチやタオルで拭くと細かい繊維が手に付着します。
繊維を使っていないペーパータオルに変えたとしても、ペーパータオル自体が破れて異物になったり、目に見えない細かい紙(紙粉)が空気中に舞い上がります。
以上から、ハンドドライヤーが選ばれるケースが一般的です。
ただ従来式のハンドドライヤーは、本体から水滴や風が漏れるため、菌・ウイルスや部屋のホコリが舞い上がるリスクがあります(エアロゾル状態)。
リスクをできるだけ減らすため、水滴や風を飛散させずに手指を乾燥させる”吸引式”のハンドドライヤー「CRENA-FF」が求められていました。
業界初の一般向け吸引式ハンドドライヤー「CRENA(クレナ)」を開発
淺見:業務用だった「CRENA-FF」を、一般向けとして初めて開発した吸引式ハンドドライヤーが「CRENA」です。
淺見:素直に打ち明けてしまうと「CRENAの開発はきっと簡単だろう」と考えていました。
最初に開発した株式会社タイズのノウハウがあったうえ、ボディの素材や大きさなどを業務用から一般向けに変更するだけと想像していたからです。
ですが、いざ開発を開始すると想定より課題が多いことがわかりました。
――どのような課題があったのでしょうか?
浅見:当時抱えていた課題は、以下の4つです。
- 高級品として扱われる価格だった
- 稀に故障の報告をいただくことがあった
- 稼働音を抑制する必要があった
- 満足のいく吸引力を確保できていなかった
業務用を一般化するのは、想像以上に大変でした。大きさも異なれば、素材も異なります。加えて、工場に比べて利用頻度が増えるので、メンテナンスをより簡単にできる必要があります。
これらをクリアしつつ価格を抑えるのは、簡単ではありませんでした。
一方、一般向けの吸引式ハンドドライヤーはこれまでになく、当時のお客様やメディアからは「画期的だ」とお声をいただいた経験もあります。
ですが私は「もっと改善できる点があるはず。」そう感じていました。
研究と改善を重ねた集大成として「CIRCULA(サーキュラ)」が誕生
淺見:CRENA(クレナ)の課題を解決しようと奮闘し、2021年に「CIRCULA(サーキュラ)」を開発しました。
――どのように工夫して、CRENAの課題を改善したのでしょうか?
淺見:具体的には、以下の3つです。
- プラスチックの製造工程を変更
- 主要部品をすべて国内産に変更
- 速度制御が安定する「ブラシレスモーター」に変更
改良1.プラスチックの製造工程を変更
――製造工程はどのように変わったのでしょうか?
淺見:以前は、プラスチックの一枚板を型に圧着していましたが、プラスチックを溶かして型に流し込む「射出成形(しゃしゅつせいけい)」に変更しました。
これにより、プラスチックの一枚板が不要になり、製造コストの抑制に成功しています。またCRENAでは、フィルターの交換をするために、複数のパーツを分解する必要がありました。
ですが、CIRCULAではこれらのパーツを一体化することで、分解することなく、簡単に交換できるようにしています。
浅見:ちなみに、採用した素材は高機能繊維や化成品などを扱う「帝人株式会社」が開発した樹脂です。
抗菌作用がある素材なので衛生面を強化した製品として認められ、抗菌のシンボルである『SIAAマーク』を取得しました。
抗菌剤・抗菌加工製品のメーカーや試験機関などで構成された団体のこと。抗菌性・安全性などの基準を満たした証として『SIAAマーク』の使用が認められる。
改良2.主要部品をすべて国内産に変更
――以前は、海外製の部品を使っていたのでしょうか?
浅見:はい。CRENAで稀に報告されていた不具合の多くは部品が原因だったため、国内製の部品に切り替えました。
さらに、半導体装置を作る工場には組み立ても依頼したことで、稼働がより安定しました。
淺見:部品や組み立てを信頼しているメーカーだけに依頼したCIRCULAでは、発売開始から1年後の2022年12月現在で、故障の報告は受けていません。
改良3.モーターを速度制御が安定する「ブラシレスモーター」に変更
――モーターの変更は稼働音にどれくらいの影響をおよぼすのか教えていただけますか?
淺見:ハンドドライヤーから発生する音は、「モーターの稼働音」とモーターによって生まれる「風音」の2つです。
つまり、「モーター」で騒音レベルのすべてが決まります。そこで、世界的に信頼されているモーターメーカー「日本電産株式会社」のブラシレスモーターに変更しました。
ブラシレスモーターは、モーター内で部品同士の接触がないので騒音レベルを抑えられます。
結果、一般的な従来式ハンドドライヤーは、100db(=デシベル)程度であることに対して、CIRCULAは84.4dbまで抑えられました。
――それはどれくらい違うのでしょうか?
例えるなら「ガード下の電車の音」と「電車内の音」や、「カラオケ店内の音」と「ピアノの演奏音」くらいの違いがあります。
また、モーターの稼働によって発生した熱が内部にこもると、電流がうまく流れなくなり動きが安定しません。
ブラシレスモーターは、放熱がスムーズにできる仕組みなので、大きな電流を流して回転数を増やしても安定して動きます。
さらに部品同士の接触がなく、回転数が増加してもスムーズに稼働します。以上から、モーターの稼働パワーをアップできたので、吸引力の向上にも成功しました。
今後「CIRCULA」に託す想い
――最後に、これからのCIRCULAへの想いについてお聞かせください。
淺見:感染症対策が叫ばれる現代において、ハンドドライヤーはさまざまな意味で注目を集めています。
弊社では『国内唯一の吸引式』として多くの施設様にご愛用いただき、2021年の発売開始から半年足らずで4桁台の製品を出荷しました。
最近では大手設備メーカーであるTOTO株式会社も、吸引式ハンドドライヤーの製造・販売に参入しています。
吸引式ハンドドライヤーの市場に、大手メーカーが名乗りを上げるほど認知が拡大した現状を大変うれしく思っています。
約25年間、吸引式ハンドドライヤーと向き合い続けて完成した「CIRCULA」を、今後より多くのお客様にご利用いただければ幸いです。
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